大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)5334号 判決

原告

西村尚

右訴訟代理人弁護士

門上千恵子

被告

株式会社ダイナム

右代表者代表取締役

佐藤洋治

右訴訟代理人弁護士

吉田繁實

田宮甫

堤義成

鈴木純

白土麻子

主文

一  原告の被告に対する持ち株返還の訴えを却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が平成二年五月一日、原告に対してした懲戒解雇の無効なることを確認する。

二  被告は、原告に対し、平成二年五月一日以降支払済みに至るまで毎月六八万六六五〇円宛、及び右各金員に対し、各支給日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告が被告に預託した持ち株九八四万七五六五円を返還せよ。

第二事案の概要

一  争いのない事実(特に証拠を掲記しない部分)等

1  被告会社は、遊戯場の経営、飲食店・アパート・貸店舗・貸事務所の経営等を目的とする会社である。

2  原告は、昭和六一年一〇月一日、被告会社(当時の商号は、佐和商事株式会社)に雇用され、被告会社の経営するパチンコ店金町Ⅰ号店のマネージャーとして勤務し、その後平成元年四月一日、綾瀬Ⅱ号店の店長代理(その後店長)として転勤した(原告本人)。

3  被告会社は、平成二年五月一日、原告に対し、自宅待機を命じ、同月一〇日、就業規則一一五条九号(「許可なく金品を持ち出したとき」)に該当するとし、同規則一一一条六号により、懲戒解雇(以下、本件懲戒解雇という。)する旨通告した。

4  原告は、平成二年四月当時、被告から一か月六八万六六五〇円の給与の支給を受けていた(〈証拠略〉)。

5  被告会社は、本件懲戒解雇の日である平成二年五月一〇日、原告が所有する被告会社の株式七八七万八〇五二株を、原告が横領したとする金品の弁償に充てさせた(〈証拠略〉)。

二  争点

1  懲戒解雇無効確認請求(但し、原告が被告に対し、従業員たる地位を有することの確認請求と善解する。)及び賃金請求に関し、本件懲戒解雇の有効性

2  従業員持ち株返還の訴えに関し、被告適格の有無

三1  争点1について、被告会社主張の懲戒解雇理由は、(一)のとおりであり、これに対する原告の反論は、(二)のとおりである。

(一) 懲戒解雇理由に関する被告の主張

〈1〉 被告会社の経営するパチンコ店金町Ⅰ号店では、スロットコインを景品交換する際、重量計測器(ジェットカウンター)によって測定し、枚数を計測する方法がとられていた。しかし、原告は、景品交換の際、客から受け取ったスロットコインを直ちに回収処理せず、これを再度重量計測器にかけ、測定結果を表すカードを収得し、正規の景品交換によって景品が出たように装った(このような不正な計測を「ダブルカウント」という。)。

すなわち、金町Ⅰ号店では、毎日のパチンコ玉、スロットコイン(以下、単にコインともいう。)の売上、景品交換状況をコンピューターによって管理しているところ、コンピューター表(〈証拠略〉)に記載された貸しコイン数と差数(打玉数と出玉数の差)の合計数が客の持ちコイン数であり、計算上、景品交換に持ち込まれる「あるべき交換枚数」であるが、実際にはコインを店内に落としたり、持ち帰ったりすることによって、景品交換に持ち込まれる「実際交換枚数」は、「あるべき交換枚数」より少なくなり、金町Ⅰ号店では、正常なときは、一日当たり二〇〇枚ないし五〇〇枚の差が生じていた。同様に、コンピューター表に記載される営業割数(景品玉数(実際交換枚数)を貸しコイン数で割った数)は、機械割数(貸しコイン数と差数の合計(あるべき交換枚数)を貸しコイン数で割った数)より、少なくなる。

これと逆の結果すなわち、「あるべき交換枚数」より「実際交換枚数」が多い場合には、ダブルカウントの不正がなされたことを示すものといえる。原告が金町Ⅰ号店に勤務していた昭和六二年四月から平成元年三月までの間に、ダブルカウントによる異常な結果が生じていた。

〈2〉 金町Ⅰ号店では、毎日景品の交換状況を表す棚卸日計表を作成していたが、原告は、パチンコ玉とスロットコインとの交換率に差があり、スロット用特殊商品(客が店外の景品買受所において現金化することができる商品であり、金町Ⅰ号店では、レコード針を用いていた。)をパチンコ用特殊商品へ移動させ余り玉(客が景品交換する際、交換比率の関係から端数処理された玉であり、金町Ⅰ号店では、一日当たり一万個から二万個生じていた。)と同様の結果を生じることや、棚卸日計表を改竄することによって、ダブルカウント、特殊商品横領の不正を隠蔽していた。

すなわち、パチンコ玉とスロットコインとでは、景品の交換率が異なっており、パチンコ玉四〇〇個に対し、スロットコイン二七五個の比率であり、スロットコインの比率が高くなっている。具体的には、特殊商品大(一〇〇〇円相当)がパチンコ玉四〇〇個、同小(二〇〇円相当)がパチンコ玉八〇個と交換されるが、スロットの場合には、特殊商品大がコイン五五枚(パチンコ玉に換算すると、貸し玉一個四円、貸しコイン一枚二〇円のため、コイン五五枚×五=パチンコ玉二七五個相当)、同小がコイン一一枚(パチンコ玉五五個相当)と交換される。

交換景品については、パチンコとスロットでは、景品交換の棚を別にし、棚卸計算も別にしていたが、特殊商品はいずれもレコード針であったため、スロット用商品の棚からパチンコ用商品の棚へ特殊商品を移動させることは容易であった。そして、特殊商品を移動させた場合、特殊商品大一個につき、スロット用の特殊商品大がパチンコ玉二七五個に換算され、パチンコ用特殊商品大がパチンコ玉四〇〇個と換算されていることから、その差一二五個が余り玉と同様の計算上の結果が生じる。

原告は、特殊商品の移動によって、余り玉の減少が棚卸日計表上明らかになるのを隠蔽し、また金町Ⅰ号店マネージャーの地位を利用し、事情を知らない同店従業員訴外斉藤順子(以下、斉藤という。)らをして棚卸日計表の改竄をさせていた。

〈3〉 原告は、被告会社の調査に対し、平成二年五月一日には、被告会社監査室次長訴外四方邦夫(以下、四方という。)の面前において、また同月一〇日には、被告会社代表取締役社長佐藤洋治(以下、佐藤社長という。)の面前において、右不正行為を認める旨の書面を自筆で作成している。

(二) 懲戒解雇理由に対する原告の反論

〈1〉 原告は、ダブルカウントの不正計測をしたことはない。被告は、あるべき交換枚数より実際交換枚数が少ないと主張するが、機械の故障、他店からのコインの持込み等があるから、あるべき交換枚数より実際交換枚数が多いのが実情である。また被告は、コンピューター表において、金町Ⅰ号店のスロットマシンの台数を五九台として計算しているが、真実は五七台であり、計算に誤差が生じる。金町Ⅰ号店で使用していたコンピューターは、旧式のものであって、機械のトラブルのためコインが多く払い出されたり、機械のトラブルのため客にコインを無償で補償しなければならないことが往々にしてあり、コンピューターに入力されずに客に払い出された玉数は、コンピューター表に記載されている出玉数の約三〇パーセントは多く、機械割数と営業割数が合わないのが実情であった。

被告のコンピューター表に基づく調査資料(〈証拠略〉)によれば、ダブルカウントの不正行為があったとされる日には、原告が公休で金町Ⅰ号店に出社していない日があったり、昭和六二年四月五日(八〇〇枚)、同月八日(一三八枚)、同月一三日(三七枚)、同月二四日(九九枚)と、ダブルカウントの不正行為をするメリットがあるかどうか疑わしい程わずかな枚数の日や、同年七月一七日(二二五一枚)、同月三日(四二四一枚)、同六三年五月二日(三二四一枚)、同月二八日二万七三八九枚)と、逆に極めて多額となるプラス枚数の日もあり、右数値の結果は、ダブルカウントの不正行為によるというよりも、スロット機械のトラブルによって発生したものというべきである。

〈2〉 原告は、斉藤らに棚卸日計表の改竄をさせていたようなことはない。同日計表において、スロットコインをパチンコ玉に換算するには、コイン枚数×七・二七(四〇〇÷五五)の換算率でなければならない。

金町Ⅰ号店では、棚卸日計表は、女子従業員二名で払い出された景品の数を確認し、総玉数の計算をし、同日計表に記載する。この作業は、三〇分間でやりとげなければならず、その間にスロットからパチンコの方へ特殊商品を移動する時間はない。また棚卸日計表には女子従業員二名が三枚の複写用紙に記載し、その日の遅番の主任又は副主任の確認のサインを必要とし、翌朝早番の主任が複写伝票を検閲しサインをしたうえ、店長である浅野義武(以下、浅野店長という。)に提出する仕組みになっており、棚卸日計表を改竄することは不可能である。

〈3〉 被告は、平成二年五月一日、原告を被告会社社長室に呼出し、同所において、被告会社監査室次長の四方と、立会人の訴外武井貞雄(以下、武井という。)は、こもごも原告に対し、「お前ひとりの身体はどうにでもなる。おれの一言で生きるも死ぬも決まるのだ。書くか書かないか早く決めろ。この業界の新聞に掲載して業界で働けなくする。この業界からおまえを消す。おまえの命はいつでも消すことができるのだ。」等と怒号して脅迫し、畏怖していた原告に対し、四方が用意してきた書面をちらつかせ、「この書面のとおり写せ。命だけは助けてやる。」等と申し向けて恐れおののいた原告に右書面どおり写し書かせたうえ、署名させたものであり、原告の自白書面なるものは詐欺脅迫によって作成させられたものである。

また、被告会社の佐藤社長は、平成二年五月一〇日、金町Ⅰ号店の浅野店長の管理者としての責任を追求するため、事実無根の懲戒解雇の理由をでっちあげ、原告に対し、事前に文案を作成していた文書を突きつけて脅迫し、有無をいわさず右文書を丸写しさせ、自白書面を作成させた。

2  争点2について、被告会社主張の被告適格不存在の理由は、以下のとおりである。

原告が被告会社に返還を求める被告会社の株式は、従業員持株会がこれを保有するものであり、同会は、被告会社とは全く別の民法上の組合とされているから、被告会社は、右返還を求める訴えにつき被告適格を欠く。

なお、従業員持株会においては、株式はすべて理事長に信託されており(従業員持株会規則九条)、組合員である会員が退会する際には、組合員に対する持分を精算し、精算金を受領する権利を有するのみであり、持分に応じた持株の交付を請求する権利はない(同規則二〇条)。そして、原告は、被告会社の社員の地位を失ったことにより、自動的に退会者になっている(同規則一九条二項)。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件懲戒解雇の有効性)について

1  懲戒解雇に至る経過

証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、関西学院大学法学部を卒業後、高島屋(難波支店)に就職し、昭和四六年頃に同社を退職後、貴金属販売業を経て、昭和五三年頃、パチンコ業界に就職し、昭和六一年一〇月一日被告会社に雇用され、金町Ⅰ号店のマネージャーとして勤務するようになった。マネージャーの業務は、店長である浅野を補佐し、労務管理・金銭管理等を行うことであった。

原告は、平成元年四月一日から綾瀬Ⅱ号店の店長代理に転勤し、その後同店店長となり、同二年四月一〇日から日立店に赴き、同店の開店準備を行っていた。

その頃被告会社の営業本部長に昇進していた浅野も原告同様、日立店に赴いて同店の開店準備を行っていた。

(二) 被告会社に対し、平成二年四月頃までに、金町Ⅰ号店の従業員である斉藤や訴外坂上誠(以下、坂上という。)から、原告がダブルカウントの不正行為を行っている、棚卸日計表の改竄をさせられた、原告の内妻で金町Ⅰ号店に勤務していた訴外西村こと桑原美智子(以下、美智子ともいう。)が景品を自分のバッグに入れていた等の内部告発があり、被告会社監査室次長の四方は、その内容を書面に作成させ(〈証拠略〉)、もと金町Ⅰ号店に勤務していた訴外狩谷輝男(以下、狩谷という。)から事情聴取し(〈証拠略〉)、同店のパチンコやスロットマシンの売上、出玉状況等に関するコンピューター資料を調査した。

斉藤の内部告発書(〈証拠略〉)の内容は、「原告がカバンの中に特殊商品を五個ないし一〇個(五万円ないし一〇万円分)入れて持ち出している。スロットマシンの計量器に多数のコインを入れて流している。コイン計量器に客が持ってきたコインをダブルにかけている。玉貸し機から千円札を抜き取っている等と聞いた。斉藤自身、棚卸し日計表の改竄をさせられた。」などというものであり、四方の事情聴取に対し、「ダブルカウントについて、レシートナンバーが飛んでいるのを当時確認した。日計表の改竄は毎日に近い程させられた。」と答えている。坂上の内部告発書(〈証拠略〉)の内容は、「最終計算時にマイナスの場合の処理方法として、プラスが出た場合はプールしておき、マイナスが出たときに使うように教えられた。引継ぎ前にプラスが出た分の現金を原告のロッカー内にあるバッグに入れ、綾瀬Ⅱ号店に移動時にそのバッグがなくなっていた。西村美智子が景品を自分のバッグに入れるのをモニターを通して見た。景品カウンターで数量が合わないのでレシートを合計していたところ、ダブルのレシートが出てきたことが数回あった。ゴルフ用品を原告が購入してきて浅野にあげたことがある。退職した新田から、景品数が違うというのでレシートを計算し、同じく退職した中村にも計算してもらったが、実数とレシート合計の景品差があったと聞いた。どのような理由か分からないが、日計表の改竄を上司命令ということで書き直させられた。」などというものである。四方の狩谷からの事情聴取(〈証拠略〉)の内容は、「マネージャー(原告)と社員との間に金銭の貸借がたくさんあった。新田主任以外は、ほとんどが五万円ないし二〇万円借りていた。原告が貸付け、奥さんが給料日に集金していた。最終売上計算のとき、現金の誤差が出た場合、原告が調整する。日計表の計算で余り玉が多い場合は、換金商品の在庫を実数より減らして計算報告し、その分の商品を別のところに置いた。翌日にはそれがなくなっていた。日計表の計算で余り玉がマイナスした場合、換金商品をスロットからパチンコに移動したり、パチンコの玉を二、三箱(一箱三〇〇〇個)、多いときは五、六箱、ジェットカウンターに流していた。玉は、島から持ってきた。換金商品が前日残と朝営業前とで違い、少なくなっていることが度々あった。朝一番で確認してない場合と朝一番での確認のときはあったが、開店前にもうなくなっているときとがあった。一〇個前後。中村が浅野に不正のこと、競輪のこと等全て話した。浅野は、『よく話してくれた。西村がそんな不正をしていたなんて、店長昇格なんてとんでもない。』とその時いったが、数日後に原告が店長代理に昇格した。結果、中村がやめた。原告の財布には常に五〇万円ないし六〇万円位現金が入っている。」などというものである。

四方が、金町Ⅰ号店のコンピューター資料を調査したところ、実際交換枚数の方があるべき交換枚数より多い(営業割数が機械割数より多い)という逆転現象が多数発生していることが判明した。また、棚卸日計表を調査したところ、スロットメーター(スロットの貸しコイン一枚の原価二〇円、パチンコ玉一個の原価四円であることから、スロットコイン数を五倍してパチンコ玉に換算した数)より、スロットの交換された特殊商品の玉数が多いという逆転現象も多数発生していることも判明した。

(三) 平成二年五月一日、日立店にいた原告と浅野に対し、佐藤社長から被告会社本社に来るようにとの呼出しがあり、原告と浅野は、同日午後二時頃、被告会社に赴いた。

そして、原告は、被告会社マンパワー室において、被告会社の四方監査室次長、丹野善博総務部長及び武井から、浅野は、社長室において佐藤社長から、それぞれ事情聴取を受けた。武井は、特殊商品の買取業を営む有限会社武井商事を経営する者であり、浅野は武井の紹介で被告会社に入社したものである。

四方らの追及に対し、原告は、同日、さしたる反論をすることもなく不正行為をしたことを認め、被告会社の佐藤社長に宛て、マンパワー室において「私が金町店において行った事について説明させて頂きます。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)、及び「今般株式会社ダイナムに金銭面において多額の迷惑をおかけしたことはまことに申し訳ございません。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)を、社長室において、「ガウン・パジャマ約一万円前後の品物、ゴルフドライバー一本(リンクス)三万七八〇〇円、在籍中に中元、歳暮として渡していましたのです。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)、及び「玉をジェットカウンターに流したか。流しました(来客者に景品タバコ・コーヒーその他)一回約三〇〇〇個位。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)を順次作成し、署名した。(証拠略)の書面には、「余り玉がマイナスが出た場合、換金商品の移動(スロットの景品をパチンコに移動する)により帳じりを合わしました。斉藤、新田、中村。玉をジェットカウンターに流すことについて、来客者が来て景品を持って帰った場合、その品物の数量を主任又は副主任に指示して玉を流しました。新田、中村。換金商品について、私がスロットの計数器にダブルをかけ、私自身が商品を持ち出しました。換金場に持って行った人は知人沢田京子、(住所略)、安田定代、(住所略)」などと、(証拠略)の書面には、「下記の金額は、私が金町店に在職している期間すなわち昭和六二年五月一日から平成元年六月三〇日の期間の金額であり今後の調査においては金額が増えた場合はその金額について責任を以て弁済することを約束させて頂きます。なお支払方法については、会社に一任させて頂きます。なにとぞ寛大なる処分をお願い致します。金三五〇〇万円也」と、(証拠略)の書面には、「この件に関して浅野店長は礼はおっしゃってこれからはこのようなことをしないようにといわれました。過去三年間において、約一〇回位だと思います。会社では、中元、歳暮等は禁止されていました。そのことは分かっておりました。」と、(証拠略)の書面には、「金町店に在職中に浅野店長より注意を受けたことについて説明致します。麻雀をして負けた場合、換金商品で決済しているのかと聞かれました(いいえと返答しました。)。スロットのメダル補充中にお客様がコインを買いに来た時点で数量を数えずにするようにと注意がありました。女性とつき合うのもよいが、家内に心配さすようなことのないように。社員に金を貸したり、社員のためにアパート代の権利金等を立替えたりするな。」等と記載されている。

また、浅野も、社長室において、佐藤社長に宛て、「金町Ⅰ号店においての不正問題について」と題する書面(〈証拠略〉)、及び「平成二年五月一日二時二五分頃社長室において、下記のようなことをいわれましたことについて書面でお答えいたします。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)を順次作成し、署名した。右(証拠略)の書面には、「昭和六二年から景品場で特にスロットの換金用の品を当時西村尚マネージャーが不正したことについて私として管理上の不備がありましたことにつきまして責任を全面的に感じております。過去に店員からお客様に聞いたとの話はききました。その時は西村マネージャーに色々と聞きましたところ、彼はその事実はないとの答えでした。昭和六二年一二月にお客様に注意されまして。西村(桑原)美智子が景品場から景品(換金用)を持ち出してコインロッカーに入れて、ロッカーの鍵を相手の人物に渡しているとの知らせがありました。その後色々と調査はしましたが、分かりませんでしたので注意を本人に厳重にいいました。上記に書きましたように色々な点で疑問点がありました点は間違いございません。私として上記の問題としてはすべて管理上の責任があることは事実でありますことから、会社の社長の処分に従い、責任を負いますことを誓います。申し訳ございませんでした。」と記載されている。

被告会社は、同日、原告及び浅野に対し、自宅待機を命じた。

(四) その後原告と浅野は、四方からの連絡により平成二年五月一〇日、被告会社本社に出頭した。

原告は、同日午後一時頃、被告会社社長室において、佐藤社長の求めに応じ、同社長に対し、「私が金町店にマネージャーとして在職していた期間で昭和六二年五月より平成二年六月の期間に少なくとも三五〇〇万円に相当する換金商品を横領し、それを現金化し着服致しました。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)を作成し、署名した。同文書には、「この横領の事実を隠すために当時の部下(斉藤、新田、中村)に日計表の改竄、換金商品の移動、スロットの計数器のダブルカウントを行わせました。もちろん私自身も行いました。横領した換金商品については、知人である女性二名に依頼し、現金化しました。私が横領いたしました三五〇〇万円の一部としてダイナム従業員持株会で私が所有する株式会社ダイナムの株式七八七万八〇五二株と現金(拠出金九三〇三円)を全て弁済に充てます。弁済手続については私の代わりにダイナム従業員持株会の規則並びに細則により事務処理を一切委任しますので処理願います。また平成二年五月分給与に関しても全額上記一部として弁済に充てます。給与支払時に直接弁済手続をして下さい。これによりなにとぞ寛大な処分をお願い致します。」と記載されている。

同日、佐藤社長は、原告に対し、「就業規則一一五条によって懲戒処分として、即日懲戒解雇とする。」旨記載された「懲戒書」(〈証拠略〉)を手渡したが、同懲戒書に添付された懲戒解雇理由書には、「貴殿は、昭和六二年四月から平成元年六月末までに金町店マネージャーとして勤務当時、桑原美智子ら部下に指示するなどして次のような手口で換金商品を最低三五〇〇万円相当を許可なく持ち出した。〈1〉スロットコイン重量カウンターを利用してダブルカウントし、本来機械割数は、常に営業割数を超えたプラス差数でなければならないのに(スロットコンピューターの出玉と景品カウンターの玉数の差)、この三年三か月間に後述する〈2〉〈3〉などの手口をもって、かつ機械営業割数を〇起点としても延べ五五九日にわたり、延べコイン枚数一七八万一一二一枚のマイナス差数を生じさせた。〈2〉その穴うめのためにスロットコインとパチンコ玉の景品交換比率がパチンコ玉よりスロットコインの交換比率の優位性に着目(スロットコイン五五枚はパチンコ玉二七五個イコールパチンコ玉四〇〇個)延べ七九日間にわたり換金商品をスロットからパチンコに移動させ余り玉を生じさせた。〈3〉また業務上恒常的に発生する余り玉を実際より少なく日計表営業日報に記入し改竄、〈1〉の穴うめをした。〈4〉さらにパチンコ玉をシマから抜取りジェットカウンターに流しマイナス差数の穴を埋めた。よって、就業規則一一五条(懲戒解雇)九号(許可なく金品を持ち出したとき)に該当する。」と記載されている。

浅野は、同日午後二時頃、被告会社社長室において、佐藤社長に対し、「私が金町店長として在職中期間に当時のマネージャー西村尚が犯した不正行為に関して店舗運営の最高責任者として重大な責任を痛感致します。」との文章で始まる書面(〈証拠略〉)を作成し、署名した。同書面には、「つきましては、今回の会社に与えた損害の一部としてダイナム従業員持株会で私が所有する株式会社ダイナムの株式売却代金のなかから金五〇〇万円を私が弁済致します。弁済手続についてはダイナム従業員持株会の規則並びに細則により一切を委任致します。」と記載されている。

同日、佐藤社長は、浅野に対し、「就業規則一一七条によって懲戒処分として、即日懲戒解雇とする。」旨記載された「懲戒書」(〈証拠略〉)を手渡した。同懲戒書に添付された懲戒解雇理由書には、「貴殿は、昭和六一年七月二〇日入社即金町店店長として平成元年一月一六日まで勤務、当時同店マネージャー西村尚の直属の上司として監督する立場にありながら西村が許可なく商品を持ち出して会社に多大の損害を与えた行為を見逃したばかりか西村から品物の贈与を受けた。店舗の運営管理上管理者が日常最も大切なことは、現金の管理、商品の管理、パチンコ玉・スロットコインの流れの管理である。今回の内部監査により店長として管理があまりにもずさんであることが明らかになった。すなわち、〈1〉現金管理について、現金の過不足を正確に報告せず、自分の金とプラス・マイナスして数字合わせをしていた。賄い費は、規程の一食三五〇円であるが、日立店の場合四四〇円になっていた。また現金残高が五月一日現在三万八一〇〇円不足していた。〈2〉商品管理について、直属の部下が金町店において三年三か月間にわたり多額の商品を持ち出すために日計表を改竄していた。〈3〉玉、コインの流れについて、直属の部下がジェットカウンターに玉を一回約三〇〇〇個流し商品の出玉と玉のもどり数のつじつまを合わせていた。またコインのもどりをダブルカウントして一回分の商品を持ち出すため実際の玉・コインデータを意図的に改竄していた。以上、いずれも直属の部下の西村が直接手を下すほか西村が部下に命じて行わせたものである。しかしながら同店の従業員や客から通報があったにもかかわらず西村の行為を黙認、継続させたこと、さらに社内では社員間の中元、歳暮を禁止しているにかかわらず、約三年間にわたり西村からゴルフドライバー(リンクス)約三万七〇〇円相当、パジャマ・ナイトガウンなど一〇回位及び贈答品を受け取っていたことは、いずれも店舗の管理責任者としての責任は極めて重大である。よって、就業規則一一七条(管理職者の懲戒)に該当する。」と記載されている。

同日、浅野は、佐藤社長に対し、警察に告訴するよう求めたが、同社長は、「原告の将来を考えるとそういうことはできない。」旨答えた。

2  コンピューター資料について

証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社金町店のパチンコやスロットマシンの毎日の売上・出玉状況は、コンピューターをもって管理されており、パチンコとスロットマシンは、各別に売上枚数、打込枚数と出玉枚数の差数、割数、景品交換用コイン計数器通過枚数を打刻した資料(〈証拠略〉は、昭和六二年七月分のもの)が、被告会社本部のコンピューターから打ち出される。

同コンピューター資料に表示されたスロットマシンの実際交換枚数は、客がコインを店内に落としたり、持ち帰ったりするので、あるべき交換枚数(同資料に表示された貸しコイン数と差数の合計数)より少なくなるのが通常であり、その差は、金町Ⅰ号店では、一日あたり二〇〇枚から五〇〇枚であると考えられていた。また、実際交換枚数を貸しコイン数で割った営業割数(コンピューター資料の割数欄の下段に表示される。)より、あるべき交換枚数を貸しコイン数で割った機械割数(右割数欄の上段に表示される。)が少なくなるのが通常であるとされていた。

(二) 被告会社において、前記内部告発後に、原告が金町Ⅰ号店に勤務していた昭和六二年四月から平成元年三月三一日までの間のあるべき交換枚数と実際交換枚数の関係を集計したものが、(証拠略)であり、次のとおり、後者が前者より多いという異常な結果(逆転現象)を生じた日があった。

昭和六二年四月一二日、マイナス八〇枚ないし二三八九枚、合計七九五三枚

同年五月二三日、マイナス三五枚ないし四七六八枚、合計三万〇八〇〇枚

同年六月一九日、マイナス九一枚ないし三九七三枚、合計二万二〇二九枚

同年七月二日、マイナス三一枚ないし三三八二枚、合計三万一三七〇枚

同年八月一九日、マイナス二一七枚ないし五八二〇枚、合計三万一〇六九枚

同年九月一七日、マイナス四四枚ないし三二六一枚、合計一万八四七八枚

同年一〇月二四日、マイナス五九枚ないし六三六四枚、合計五万九九六四枚

同年一一月二四日、マイナス二八枚ないし七二六二枚、合計一〇万二七四七枚

同年一二月二六日、マイナス一七二枚ないし一万一七九七枚、合計九万五二七三枚

昭和六三年一月二八日、マイナス八〇枚ないし九一九五枚、合計一〇万九〇六四枚

同年二月二八日、マイナス一七六枚ないし一万〇一〇八枚、合計一二万八三九六枚

同年三月二七日、マイナス二六三枚ないし一万〇一〇七枚、合計一二万一八八〇枚

同年四月二五日、マイナス一六九枚ないし八〇〇二枚、合計一一万三〇一一枚

同年五月二〇日、マイナス七九枚ないし七四一五枚、合計八万三四〇一枚

同年六月一八日、マイナス九三枚ないし六〇五一枚、合計四万八二七九枚

同年七月二三日、マイナス二三枚ないし八二六二枚、合計八万四三九三枚

同年八月二五日、マイナス三〇ないし八三四〇枚、合計一〇万二一六七枚

同年九月二六日、マイナス二七枚ないし八〇五九枚、合計一一万〇七二八枚

同年一〇月二一日、マイナス一二九枚ないし六七二〇枚、合計八万八一六一枚

同年一一月二三日、マイナス六一一枚ないし七九七四枚、合計一〇万七五九八枚

同年一二月二二日、マイナス一一七枚ないし六七二四枚、合計九万五八六四枚

平成元年一月二三日、マイナス八三九枚ないし八八七五枚、合計九万一六九五枚

同年二月二四日、マイナス一八〇九枚ないし七二八七枚、合計一〇万七九二三枚

同年三月二二日、マイナス三八枚ないし一万〇二七七枚、合計四万九四九九枚

以上合計マイナス一八四万一七四二枚

被告会社は、コイン枚数五五枚で特殊商品のレコード針一個(仕入れ単価一〇四八円)となることから、右マイナス一八四万一七四二枚を五五枚で除し、一〇四八円を乗じた金三五〇九万三三二八円をもって、横領被害額と算定している。

(三) 被告会社では、このほかに、台間のサンド玉貸し機(通称ハンバーガー)毎の貸し玉金額、パチンコ台のブロック(通称島)毎の金庫に収集されるべき売上金、一台当たりの平均売上額を表示するコンピューター資料(〈証拠略〉)、パチンコ台一台の平均打玉合計数、同出玉合計数、打玉数と出玉合計数の差数(赤字の印字は出玉が多いことを示す。)、一台当たりの平均打止回数、パチンコ台全体の合計打玉、出玉、差数、スロットの貸しコイン機の売上金額、割数(景品交換に持ち込まれたコイン枚数を貸しコイン枚数(売上合計金額を貸しコインの単価二〇円で割った数)で割った数値)、景品交換に持ち込まれた枚数(実際交換枚数)を表示するコンピューター資料(〈証拠略〉)、スロットの持玉数(貸しコイン数から差数及び景品交換枚数を引いたものであって、赤字の印字は持玉がマイナスすなわち景品交換に持ち込まれるべき枚数より実際に景品交換に持ち込まれた枚数が多いことを示す。)を表示するコンピューター資料(〈証拠略〉)があり、これらの資料は、金町Ⅰ号店のコンピューターに打ち出される。

また、パチンコ、スロットの台毎の打玉、出玉等の状況(赤字の印字はマイナスを示す。)を表示するコンピューター資料(〈証拠略〉)があり、同資料も金町Ⅰ号店のコンピューターに打ち出される。

3  棚卸日計表について

証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社金町Ⅰ号店では、毎日の景品交換状況をパチンコ玉数に換算して記載した棚卸日計表を作成している。同日計表の作成手順は、閉店後、女子従業員が景品の残量等を確認し、パチンコ玉に換算した総玉数の計算をするなどし、同日計表の所定欄に記載する。作成者名も、同表の欄外に記載する。右同日計表(複写)の記載内容を、当日の遅番の主任、翌日の早番の主任及び店長が検閲したうえ、被告会社本部に提出するというものである。

同日計表の「スロットメーター」欄には、コイン計数器(計量式)通過枚数を五倍(貸し玉一個四円、貸しコイン一枚二〇円のため五倍)した数値が記載されている。また「品先」の「スロット大」の欄には、交換個数を二七五倍(コイン枚数五五枚が特殊商品大(一〇〇〇円相当)一個に当たるので、五五枚の五倍)した数値が記載されている。同「スロット小」の欄には、交換個数を五五倍(コイン枚数一一枚が特殊商品小(二〇〇円相当)一個に当たるので、一一枚を五倍したもの。)した数値が記載されている。「品先」の「パチンコ大」の欄には、交換個数を四〇〇倍(パチンコ玉四〇〇個が特殊商品大一個に当たる。)した数値が、「パチンコ小」の欄には、交換個数を八〇倍(パチンコ玉八〇個が特殊商品小一個に当たる。)した数値が記載されている。

景品交換のときには、玉数の端数は切り捨てられることになっており、端数処理した玉を余り玉という。余り玉は、棚卸日計表の「誤差」欄に記載されるが、金町Ⅰ号店では、余り玉は平均して一日当たり一万個ないし二万個生じていたとされる。

「スロットメーター」欄の数値は、客が計量器に持ち込んだコインの枚数をパチンコ玉数に換算したものであり、コンピューターによって管理されている。同数値が「スロット大」欄と「スロット小」欄を合計した数値、すなわちコインが実際に交換された枚数をパチンコ玉数に換算したものより大きくなることはありえず、金町Ⅰ号店では、平均して前者が後者より約九〇〇〇個多いとされている。

(二) 被告会社において、前記内部告発後に、原告が金町Ⅰ号店に勤務していた昭和六二年四月から平成元年三月三一日までの間のスロットメーターの数値とスロット大、小の数値の関係を集計したものが、(証拠略)(〈証拠略〉は、原資料である昭和六二年七月分の棚卸日計表である。)であり、次のとおり、後者が前者より多いという異常な結果(逆転現象)を生じた日があった。

昭和六二年四月○日

同年五月○日

同年六月三日、マイナス一万六五九〇個ないし一万八六五五個、合計五万二七四〇個

同年七月一五日、マイナス四四〇個ないし二万〇三五〇個、合計二三万〇七七五個

同年八月二日、マイナス六一〇〇個ないし一万八二〇五個、合計二万四三〇五個

同年九月五日、マイナス二六一五個ないし三万七〇一五個、合計六万八五三〇個

同年一〇月二日、マイナス一万六五七〇個ないし一万八六六五個、合計三万五二三五個

同年一一月一日、マイナス六七〇五個

同年一二月一日、マイナス四五五個

昭和六三年一月一〇日、マイナス六二〇個ないし三万四四六五個、合計一五万八五九五個

同年二月三日、マイナス八五個ないし一〇二五個、合計一九〇五個

同年三月六日、マイナス四七〇個ないし六四〇五個、一万七二〇〇個

同年四月二日、マイナス一五二五個ないし三四四〇個、合計四九六五個

同年五月九日、マイナス五六五個ないし二万一一〇五個、合計五万九六九五個

同年六月七日、マイナス三〇個ないし五二四五個、合計一万六六四五個

同年七月○日

同年八月五日、マイナス一四五個ないし二三〇五個、合計六七七〇個

同年九月○日

同年一〇月○日

同年一一月八日、マイナス一二二五三(ママ)万〇七七五個、合計七万〇五八〇個

同年一二月三日、マイナス一六九〇個ないし一九一五個、合計五三三五個

平成元年一月二日、マイナス二九三五個ないし八七〇〇個、合計一万一六三五個

同年二月一日、マイナス五万七〇八〇個

同年三月一日、マイナス四万三八一五個

以上合計マイナス八七万二九六五個

被告会社は、右マイナス個数とあるべきプラス個数(一日当たり九〇〇〇個で総個数七七万四〇〇〇個)との合計一六四万六九六五個をスロット大の特殊商品一個あたりのパチンコ玉換算個数二七五個で除し、四〇〇個を乗じ、一六四万六九六五個を差し引いた七四万八二三五個をもって、計算上棚卸日計表で不正に計算された個数であるとし、これを金額にすると、二七五個で除し、スロット大一個あたりの特殊商品原価一〇四八円を乗じた二八五万五六〇円であるとしている。

4  検討

前記1(三)(四)に認定したとおり、原告は、平成二年五月一日、四方監査室次長らから、ダブルカウントや特殊商品を持ち出す等の不正行為を行ったのではないかとの追及を受け、特段の反論・弁解もせず、これを認め、その手口を説明する旨の自白書面(〈証拠略〉)を作成し、次いで同月一〇日、佐藤社長に対しても、何ら弁解もせず、同様の自白書面(〈証拠略〉)を作成し、同書面においては、被告会社の株式七八七万八〇五二株と現金九三〇三円をもって被害弁償に充てることすら承諾しているのであって、右各書面の作成の経緯について、その任意性や信用性を疑わせるような事情は見出せない。原告は、同年五月一日に四方らの追及を受けた際、武井が同席し、「この業界で働けなくする。」等と脅迫を受けた結果、右自白書面を作成した旨主張・供述するが、(人証略)に照らし、措信することはできない。

原告が不正行為を行っていたことは、前記1(二)のとおり、金町Ⅰ号店の従業員である斉藤、狩谷、坂上の内部告発書(〈証拠略〉)があり、その内容は、原告から命令され自らも日計表の改竄を行ったことを告白し(〈証拠略〉)、あるいは原告の内妻美智子が特殊商品をバッグに入れ、持ち出すものを目撃した(〈証拠略〉)等、迫真性に富む生々しいものであり、その信用性は高いと認められ、ダブルカウント、特殊商品の移動、特殊商品の持ち出し等、原告の自白内容と概ね符号するものである。なお、浅野店長も、昭和六三年一二月頃、顧客から「原告らしい人物が悪事を行っている」旨の告発を受け、約一五日間にわたって、原告と内妻美智子を見張り調査したことがあった。

そして、前記2のコンピューター資料の調査結果、及び3の棚卸し日計表の調査結果も、原告が特殊商品持ち出しの横領行為を隠蔽するため、ダブルカウント、日計表の改竄等の不正行為を行っていたことを裏付ける内容のものである。なお、原告が金町Ⅰ号店から綾瀬Ⅱ号店に転勤した以降である平成元年四月から六月にかけて、金町Ⅰ号店の棚卸し日計表(〈証拠略〉)をみると、スロットメーターの数値が、スロット大及びスロット小の合計数値より大きくなる異常結果(逆転減少)は、ほとんど生じておらず、この事実も原告による不正行為が行われたことを推認させるものである。

原告は、右コンピューター資料でダブルカウントの不正行為があったとされる日に原告が出社していない日がある旨主張し、原告の出勤簿(〈証拠略〉)、対比表(〈証拠略〉)の記載は、右主張に沿う結果となっているが、コンピューター資料は、統計的・間接的に原告の右不正行為を裏付けるものであるし、原告が出社していなくとも、棚卸し日計表(〈証拠略〉)には、原告の内妻美智子が出社していると認められる日もあり、同人において、原告と共謀して右不正行為を行った可能性も否定できない。

右認定事実によれば、原告は、被告会社の金町Ⅰ号店のマネージャーとして在任中、昭和六二年四月から平成二年六月にかけ、自らあるいは内妻美智子と共謀して、特殊商品を持ち出し、これを換金する横領行為を行い、これを隠蔽するため、ダブルカウント、日計表の改竄、特殊商品の移動等の不正行為を行っていたものであって、被害額は、統計上の数額ではあるが、合計三五〇〇万円にのぼると認められる。

原告は、機械の故障・トラブル等がありうること、コンピューター表と実際のスロットマシンの台数の相違、コンピューター資料上異常があったとされる数値が小さい日のあること、スロットコインとパチンコ玉の換算率、日計表改竄の可否等の問題点を挙げ、原告による不正行為がなかったと主張するが、いずれも右認定を覆すに足りるものではない。

そうすると、原告の右横領行為は、被告会社の就業規則一一五条九号(「許可なく金品を持ち出したとき」)に該当するところ、その行為は、マネージャーとしての地位を利用したものであり、期間は長期にわたり横領金額も非常に多額にのぼっていること、原告は、極めて巧妙な隠蔽工作を行っており、そのため発覚するのが遅れた原因となっていること等の事実に徴すると、情状は悪質であり、原告の在任中、金町Ⅰ号店の営業成績は、良好な状態を維持していたこと(この事実は争いがない。)こと(ママ)を考慮しても、被告会社が原告に対し、懲戒解雇をもって臨んだことには相当の理由があり、本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるとは認められない。

二  争点2(従業員持ち株返還の訴えの被告適格の有無)について

被告会社の従業員持株会規則(〈証拠略〉)及び「ダイナム従業員持株会について」と題する書面(〈証拠略〉)によれば、前記第二・三・2の被告会社の主張をすべて認めることができる。

右事実によれば、被告会社は、右訴えについて被告適格を欠くというべきである。

三  以上によれば、原告の従業員持ち株返還の訴えは、不適法であるからこれを却下することとし、その余の請求(懲戒解雇無効確認請求及び賃金請求)は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田肇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例